Day10

23番薬王寺から24番の最御崎寺の室戸岬まではお寺がなく、75キロの道のりを延々と歩き続けるだけ。

通常そこまで2.3日はかかるので歩き遍路には嫌気がさしてくるとの事だった。

しかも長い一本道なので、この頃から歩き遍路同士のデットヒートが繰り広げられる。

つまり、抜きつ、抜かされの攻防が繰り広げられる道でもある。

足の筋肉痛はあるが、それ以外は回復してきているので今日は30キロ以上歩く予定。





長いトンネルを歩く。

普通、トンネル内を歩く経験はそうないと思う。

と言うか、私も遍路に来るまではトンネル内を歩いた事は一度もなかった。

いつも車で通るだけであったが、歩いてみるとその危険性が良く分かる。

歩道側にガードレールがあればまだ良いのだが、ただ白線だけを引いてあるトンネルが遍路道には多い。

その直ぐ横をダンプカーやトラックが轟音を出して猛スピードで通り過ぎて行くのだ。

その通り過ぎる風で煽られたり、疲労で足が縺れたりするので、かなり注意が必要である。

歩き遍路さんも長いトンネルがあると皆、嫌がっていた。

たまに迂回出来る道もあるが、殆どはトンネル内を通らなければ行けない。

そこで、懐中電灯などが必需品となって来る。

それを照らし、車に注意を促し歩いて行くのだが、後はドライバーさんの安全運転を祈るだけである。

また、車が全く通らないトンネルもあるが、トンネル内は音が反射するので、杖を突く音、コツ、コツ、と言う音が響き渡り、遍路しているなと言う実感が沸いて来る。



 

海沿いから逸れ、山側に入って行くが、田舎の集落は大正時代の面影を残している町が多い。

しかも、決まって床屋さんがある。

遍路に来て思ったのが、薬局、靴屋、床屋が以上に多いと言う事だ。

その中でも床屋さんは群を抜いて多い。

一つの小さな町に(距離で200メートル位)食堂はなくても床屋さんは2軒あったりする。

そんなに髪の毛を切りに行くものだろうか?と不思議でならない。

その反面、駅周辺や町中でも食事をする所が全くないので、ここら辺に住む人は外食を殆どしないのであろう。




山側から今度は海側に出て歩いていると、後ろから猛ダッシュで追いかけて来る歩き遍路の方を見つける。

歩きはじめて既に5時間、かなり疲れているが追いかけられると逃げたくなるのが、人の習性である。

私も少しスピードを速め突き放して行くが、暫く経ちそっと後ろを振り返ると、先程の歩き遍路さんは、おかまの競歩ばりで追いかけて来る。

しかも私が後ろを振り返っている事に気が付くと、何もなかった様にスピードを落とす。

また、歩きはじめると手と首を一生懸命振りながら追いかけて来るので、笑いが止まらなかった。

結局、最後はどこかに消えてしまったが、遍路をしているとしばしば健脚自慢になる事があり、自分がどれだけタフなのか、歩けるのか、そこで優越感を持つ人が多いと言う事だ。

これは、歩き遍路をしていると知らず知らずの内にそうなってしまう。

モテる業界に入れ替えてみると「モテる」のが遍路では「速い」と言う事、「モテない」のが「遅い」と言う事。

文章だけではこの心境が理解出来ないかもしれないが、歩き遍路をして行くと例外なく皆、そうなって行く。

非常に面白い現象である。


しかし、今日は初の30キロ越えで、先程のデットヒートのお蔭で足がクタクタになってしまった。

道中も粉のプロテインを補給し、体調を整え、午後4時宿に到着する。


宿では世界中の山を登っている歩き遍路の方がいた。

その山の話を聞いていると、エベレストなんて登るだけで100万位必要になるらしい。

また、そこで興味が出て来たので色々聞いていると、世界中の山に登るのは危険が付き纏うが、きつさで言えば遍路の方が遥かにきついとの事。

山は高度に慣れる為、一日の移動時間は少ないが、遍路は様々な道を長時間、しかも毎日、長期間に渡り歩き続ける為、遍路の方が肉体的に厳しいらしい。


やっと10日目に到達したばかりの私は、過酷な事にチャレンジしたのだと改めて思った。


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