Day14

朝、自分の顔を見て吃驚した。

寝過ぎと疲れで顔がパンパンに浮腫んでいるのである。

別にお姉ちゃんとデートする訳でもないが、ミニラ級に浮腫んだ顔は少し恥ずかしい。

まぁ、汗を掻けば引くだろうと気を取り直し出発する。


今日は、高知一高い場所にある神峰寺の登りが控えている。

本来であれば昨日、神峰時の麓の宿の宿泊し、朝一から登る予定だったのだが、予定が変わってしまったので致し方ない。


しかし、今日の海は荒れている。



朝一の海は気持ち良いが、ここまで荒れていると自然の脅威を感じる。

生憎外は曇りで、歩くには調度良い気温だが景色は良くない。

そんな海を見ながら2時間も歩くと神峰寺の麓までやって来た。

 

ベテランお遍路さんの話ではこの登りはきついので、荷物をどこかの小屋に隠して登って行くらしいが、私は12キロのザックを担いで登って行った。

片道3・4キロの道は想像以上にきつい。

毎度の事ながら汗が一気に噴き出してくる。

430メートルの高さまで1歩1歩距離を縮めて行くが、思うように足が運ばない。

神峰寺は山の上と言っても、アスファルトで出来た道と山道の交互の道を登って行かなければいけない。

そして、そのアスファルトの登りが思ったよりきついのである。

スピードはゾンビが歩く様なスピードしか出せず、ヒイヒイ言っていると、ハイヤー貸し切りの団体さんや車で来ている人達が皆こちらを見て行く。

「大変だな・・・」そう思っているかどうかは知らないが、たまに見かける歩き遍路さんもザックは麓の旅館に預けて来た人ばかりであった。


「あかん、キツイ・・・」


汗が尋常ではないので、休憩所の水道で顔を洗うと、朝、浮腫んでいた顔は綺麗に引いていた。


キツイ道を歩く時、何を考えているかと言うと、実は殆ど何も考えられない。

とにかく、目の前にある道を1歩でも前に歩いて行くだけである。

そして、キツイ思いをした分、達成感で満たされる。

これが楽な道であれば、達成感などは全くないので、ストレスを抱えている人には山登りは最適な運動かも知れない。

実際問題、山登りをいくつもこなして来て本当にそう思った。

きつい⇒頭が空っぽ⇒達成感や充実感⇒ストレス発散と言う感じである。

遍路に来ると心の病が治る一つの要因がこのサイクルであろう。



やっと、神峰寺の駐車場に着いた時には、打たれまくったボクサーの様に衰弱していた。

自動販売機で売っていたコーラを一気飲みし、山門まで後少しと思い力を振り絞るが、山門を潜り目を疑った。



またかよ!

遍路寺に良くある光景・・・本堂までの階段が157段控えているのである。



車で来ているのであれば何て事はないが、山をずっと歩いて来て一段落してからの「まさか」は精神的に堪える。

岩崎弥太郎の母親が安芸市から21日間通い続けた逸話が残っている本堂でお参りを済ませると「何で歩いているんだろう・・・」と、歩く事に疲れ切った自分がいた。

習慣になるまでが3週間、特に2週間目は一番きつい時期でもある。

コーチなどが付いていれば難なくこなせるのだが、遍路旅は究極の自分との戦いである。

そう考えればコーチの威力は凄い。

筋トレで言えば限界からの2・3回が一番筋肉を付けるのであって、それを一人で行おうと思っても力は出せない。

出せないよりも出来ない方が的確だろう。

しかし、コーチはその限界からの2・3回を引き出してくれる。

それを延々とこなして行く訳だから、力がメキメキついて行くのは当たり前であるが、自分との戦いをしている私は音楽を聞いて気合を入れる事にした。

プリンスの「Endorphinmachine 」

格闘技のK1のオープニング曲でもあったので知っている人も多いだろう。

Ow! Come on! Yeah! C-c-c-c-c-come on! のフレーズを聞いているだけで元気が出て来る。



参拝を済まし来た道を引き返して行くが、前方に遍路さんの方が歩いていて、何か、その後ろ姿はクマのプーさんに似、フラ~フラ~と体を横に揺らし歩く姿を見ていると元気付けられた。



 

農道を歩き、海沿いに戻って来るが、ますます波は高くなっている。

途中、橋が決壊していて渡れないとの事で迂回する道を暴走族風のお兄ちゃんに聞くが、四国の人は遍路さんに丁寧過ぎるほど詳しく教えてくれる。

暫くすると、遍路道には珍しくどんぶり屋さんがあったので、そこで久しぶりのカツ丼、天丼、冷やし中華大盛りを注文したら、「お連れさん後から見られるのですか?」と聞かれた。

「いや、僕が食べます」と言うと吃驚された。

これだけエネルギーを補充しても1日、約3000キロカロリー+基礎代謝分が消費されて行くので、食べられる時に食べておくのが遍路を歩き続けれる秘訣でもある。



小さい集落を通り過ぎ、岩崎弥太郎の出身地、安芸市に突入する。

 

全国コンサルでも途中立ち寄ったが、ここの土地は気の流れが本当に良い。

いるだけで新鮮な気持ちになる。

岩崎弥太郎の生家は以前、見学したので寄らなかったが、遍路さんの中には、ここで宿泊し立ち寄る人も多い。


私の宿泊先はもう少し先なので、黙々と歩き午後4時頃ホテルに到着した。

ホテルだと遍路さん同士の会話がないのが残念だが、旅館や民宿の料理に飽きて来た時、外食をすると雰囲気が変わって良い刺激になる。

この日はホテル近くの居酒屋さんで夕食を食べたが、「勿論かつおのたたき」が目的であった。

遍路話や自身の話でお店の人と盛り上がり、「これ良ければ」と、かつおの刺身をご馳走してもらった。

お礼に気功と心理トリックを少し披露したら、そこのおかみさんに「あなたは特殊な力を持っているんですか!?」と、本気で吃驚してたので、使う時と、使う場所を気をつけなければ行けないなと思う。

特に遍路では。


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