Day20

朝起きたら、目がバンバンに腫れている。

酒もそこまで飲んでいないので、おかしいな…と思っていたら瞼を蚊に刺されていたようだ。

この顔で歩くのは結構恥ずかしい。

しかし、そうは言っていられないので荷物を纏め、自動販売機でコーヒーを飲み、今日も歩ける事に感謝をする。

次の札所、足摺岬の金剛福寺を目指す。



道を歩き続けると、看板にお遍路さんに人気のあるトンネルがあると書いてある。

人気のあるトンネル?不思議に思ったが急ぐ旅でもないのでそれを見て行く事にする。



集落を通り抜け、山に入って行くとそのトンネルが見えて来た。



どうやらこの熊井トンネルは国道56号線が出来るまで主要道路であったが、今では村の人が使う程度になっているらしい。

このトンネルを作る為に佐賀港から小学生がレンガを運んで来て、職人さん同士が競い合って工事をしたと書いてあり、トンネルの入り口は広いが出口は狭いと呟いた人がいると言う。

確かに、見た目はそうだ。

こちらから見ると、ドラえもんのガリバートンネルみたいである。

誰もいないトンネルの中に入り、杖を突くとコツ~ン、コツ~ンと、杖の音だけが響き渡る。

そう言った情景に身を置くと、自分が今遍路旅を現実にしているんだなと実感する。

誰が考えたであろうか・・・まさか遍路旅をするなんて。

街で育ち、街で騒ぎ、飲みあかして来た自分が、いくつもの偶然の重なりで導かれ、今こうして旅をしている。


この旅で得られるものは?


それは旅が終わってみないと分からないかもしれないし、得る物ではなく、感じる事かも知れない。

遍路には不思議な力がある、そう感じていた。



 

トンネルを抜け、カツオの町土佐佐賀黒潮町に入る。

ここは高知県のひろめ市場にあるかつおの有名店、明神水産の本拠地だ。

私も一度食べた事があるが、半端なくうまい。

塩たたきは超新鮮な肉厚で口に含んだ瞬間、香ばしい風味が口いっぱいに広がる。

元々高知は、どこでかつおを食べてもおいしいのだが、この明神水産のかつおは超別格であった。

その塩たたきを食べながら赤ワインをノ飲み干したのを覚えている。

その明神水産のかつおが売っているとの事で遍路道沿いの道の駅に寄ったのだが、冷凍しかなく残念ながら食べる事は出来なかった。

しかし、食堂では、違う会社のかつおのたたきが売っていたので、それを食しタンパク質を補充。



他にもかつおのたたきバーガーなどが朝から売っている。

この道の駅で愛媛から車でプチ旅行をしているギャル2人組に喋りかけられた。

どうやら遍路さんに興味津々のようだ。

一緒に乗って行きませんか?と、誘われたが、残念、歩き遍路をしているのでそれは丁寧に断り、そこを後にした。

もし、これが街であれば「乗って行きませんか?」とは100パーセント言われない。

街で暮らしていたギラギラが良い意味で取れ、尚且つ遍路文化が根付いている四国だからこそだろう。

四国は素晴らしい。



 

そこから暫くした場所に佐賀公園と言う場所があり、そこの展望台に行くが、そこからの景色が凄かった。

まさに絶景。

  

海は海でも波が荒く迫力がある。

全国コンサルの時、日本海は何か寂しげな感じがしたが(演歌の影響?)太平洋を眺めていると気持ちが良い。

 

展望台の案内板を見ると、向こう側に微かに見えるのが室戸岬のようだ。

改めて思うが、人間の1歩と言うのは積み重ねると偉大な力になる。


「お遍路さん、饅頭食べろうか?」


休憩をしようとこの展望台を訪れてきた、おじさんが言った。

一つ、その饅頭を貰い、四国文化について話をした。

「ほいじゃぁ、わし、仕事があるき、これで失礼するき、あんさん頑張りや!」

「ありがとうございます」

遍路は一人で黙々と歩くイメージがあるが、確かにそうだ。

しかし、遍路をしているだけで、絶えず人との触れ合いや、全く知らない人との会話が生れて来る。

これは、通常の旅では考えられない。

だからこそ、辛い道のりを歩き通し、遍路を終えた人でも、また四国の巡礼に戻ってくる人が多いのだろう。


人はそれの事を四国病と呼ぶ。


この旅に出るきっかけとなった、宿の人の言葉・・・世界中であらゆる遊びをした人が最後に行くつく場所、それが遍路。

心身共に健康になり、満たされる。

私は全ての遊びを経験している訳でもないが、その意味が何となく理解出来た。





海岸線沿いを龍馬伝のCD,想望を聞きながら歩く。

今、生きている実感を味わう瞬間って、そうそうはない。

単調な暮らしで時間が過ぎ去って行く街と違い、歩いて行く景色はゆっくりと動き、物事を考えるには十分過ぎる程であった。



宿の夕食時、歩き遍路さん達と、3人で喋っていたが、今日の宿のおかみさんは遍路宿にしては無愛想で、言葉の節々にそっけなさがある。

どちらかと言うと、私達はお客さんの扱いではなく、泊めてやっている感が否めない。

こう言った状況だと、お酒を頼むのも遠慮しなくてはいけないので、お店側としても売り上げに響いて来るのだが・・・

「ここ愛想ないね」

一人の遍路さんがそう言う。

折角の思い出の遍路、楽しく行かなくてはいけない。

しかし、私はこんな状況から盛り上げるのは大の得意である。


「じゃぁ、少し待っていて下さい」


相手に面と向かって言うのではなく、聞こえるか聞こえない位で料理のうまさを褒めて行く。

「このたたきめちゃおいしい、味付けが絶妙だよ」

「今日、ここに泊まって良かったですね」

「地元に帰ると二度とこんな料理は食べられない」

などと、遍路さんに言っているようで、台所にいるおかみさんに聞こえるように喋って行くのである。


すると、

「貰いものだけどサービスで」と、おかずが1品増えて行き、「柿剥いてあげようか?」と、果物まで出て来た。

この、まさかの展開に他のお遍路さんは吃驚している。


「楽しく行きましょうよ、すいませんビール1本おかわり!」

「は~い、分かりました」

宴は夜まで続いたのである。


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