Day25

朝食時も老夫婦と話が盛り上がり、気が付いたら午前7時、何と1時間も喋っていた。

互いの無事を祈りながら挨拶を交わし、宿を出る。


今日は意図的に距離を縮める事にした。

どちらにしても、調度良い距離に宿がないのでそうするしかない。


国道を歩き暫くすると松尾トンネルがある。



このトンネルは遍路道の中で一番長い1.7キロ、歩いて行くと、27分と地図には記載されている。

「あ~ここか、遍路さん達に悪名高いトンネルは」

1・7キロなら私で20分位か・・・しかし愛媛はトンネルだらけだ。

昨日も、かなりの数トンネルを通ったが、白線だけのトンネルは勘弁してほしい。

このトンネルの上に緩やかな遍路道もあるのだが、私は悪名高いこのトンネルを通って見たかったのでこちらの道を選択した。

幸いにも松尾トンネルは歩行者用の段差を歩けるようになっており、白線だけではないのでまだ安心。

と、思ったら車の往来が凄く、排気ガス充満で気分が悪くなってきた。

少し、速度を速めるが、中々出口が見えてこない。

最初こそ、コツ~ン、コツ~ンと言う杖の音だったが、その内、コツ!コツ!コツ!と競歩並みの速さでトンネルを通り抜けた。

トンネル内ではるか遠くに見えていた遍路さんをあっと言う間に追い抜かしてしまい、その方は勢いよく迫ってくる杖の音と私に吃驚したのではないだろうか。

申し訳ない。


トンネルを抜け国道沿いを歩いていると1台の車が停まる。

「お遍路さ~ん、乗ってくか?」

ベンツのシルバーのオープンカーで、爽やかな感じの老人が乗っている。

通常、お接待は受けるのが基本だが、歩き遍路の場合全行程を歩く目標がある為、この場合、丁寧にお断りすれば問題はない。

「ありがとうございます、今日はそこまで距離を歩かないので大丈夫です」と言いお断りした。

歩き遍路でなければ便乗させてもらったのだが致し方ない。

しかし、考えて見ればありがたい事である。

車で乗せて行ってあげるよと言うお接待は、親切心で言って来るので断る方も辛い気持ちがする。

それを受けるかどうかは本人次第だが、こんな話を聞いた。

歩くと決めたのにお接待をしてくれる気持ちを蔑に出来ず車に乗ってしまった、車はあっと言う間に目的地に着くので、それから歩くのが嫌になり、歩き遍路をやめてしまった、と。

案外このような方は多いらしい。

今まで苦労して歩いて来た道があっと言う間・・・歩くのが嫌になる瞬間かもしれない。





宇和島の繁華街を抜け宇和島城を横目に歩く。

至る所に闘牛のポスターが貼ってあった。

闘牛か、一度も見た事がないな・・・宇和島は小さい町ながら活気がある。

調度お祭りをしていて町のお兄ちゃん達が神輿を担いでいた、こんな町で飲んだら楽しそうだ。





宇和島の町中を過ぎ、JR予土線沿いの道を歩き続けたら、調度良い場所に中華屋さんがあったので入る事にした。

と言うよりもここを逃したら他の店は全くなさそうな感じである。

中華屋さんだけど、丼物も全部置いてあるお店で、一風変わった感じがしたが、久しぶりの丼物なので中華飯、カツ丼、味噌ラーメンを食した。

最近、食欲はそこまでないが、食べられるだけ食べておく。

店を出てから小学校の前を通って行くのだが、元気そうな生徒が校庭で沢山遊んでいる。

遍路をしている私を見つけ生徒が駆け寄り「こんにちは~!」と、次から次に挨拶をされ少々照れくさいが、子供の純粋で無邪気な明るさがとても嬉しい。

何度でも言うが、四国のお遍路文化は素晴らしすぎる。


休憩をしながらゆっくりと歩いても、41番龍光寺に昼過ぎには着いてしまい、例の如く急な階段を上り到着。

 

納経所では前の人が商売繁盛の御守りを購入している。

商売繁盛の御守りは殆ど売れないらしく、納経所の人は値段が分からなく困っていたが、そのやり取りが面白く笑ってしまった。

「売れている?」

「売れていません・・・」

「ご利益ある?」

「どうでしょう・・・」

「じゃぁ、買うよ」

その方はバイクで廻っていたお遍路さんで、1週間の予定で四国88か所を全部廻るらしい。

バイクはバイクの楽しさがある反面、遍路さんの宿では歩き遍路さん同士の会話が羨ましいと言っていた。



 

次の札所、42番仏目木寺で納経を済ませ、宿に向かう。

やはり距離を延ばさないと何か物足りないなと感じるが、今日は色々と考える事が出来、最近ではない、思考の使い方だった。


遍路をしていると宿の夕食時が一番面白い。

その時にどんな遍路さんがいるかで盛り上がり方が全然違って来るからだ。



「あっ!」

夕食時、道中やお寺で何回も会った白人の方がいた。

この方、私が追い抜いて行く時、わざわざ立ち止まってくれ、両手を左から右に流し紳士的に「どうぞ」と言うジェスチャーをした方だ。

また会ったねと言う爽やかな笑顔をしている。

こちらも自然と笑みがこぼれた。

遍路さん同士は余程歩くスピードが速い人でない限り、お寺の休憩時に会ったりする。

今日私はゆっくりと歩いて来たので、何回も再会した訳だが、喋らなくても人は偶然数回会うだけで仲良くなる。

これは、単純接触の原理だが、わざとはただのストーカーなので(相手に分かる)偶然と言うのが大きい、ただ遍路さんは目的が一緒なので(共通点)これが続けばすぐに打ち解ける。

また偶然にも夕食の席が私の隣だったので、話をするとイギリスから、遍路だけの為に日本に来たらしい。

見た感じは本当に紳士「The Gentleman」の見本みたいな人であった。

その風格、知性、喋り方、眼差し、この人只者ではないだろう、と思っていたら世界中に支店があるアンティーク会社のオーナーであった。

世界中で遊び、旅をし、最終的には日本の文化に魅せられ、その中でも歴史のある遍路道を歩いているとの事。


その方にとても大事な事を教わった。

「幸せとは全て自分の心の中にある」「それを作り出すのも、なくすのも今この瞬間から出来る」「足りない物ばかり見ているとお金がいくらあっても一生心が貧しくなる」
「物で心を満たすのは限界がある、生き方を満たせ」などなど。


サラッと出て来る言葉ではない、自身が経験したからこそ言える深い言葉だ。

普通に生きていたら絶対に出会わないし、普通は会う事すら困難な人かもしれない。

お遍路には世界中から参加する人がいて、このような方の空気に触れる事が出来る。


改めて凄い旅だなと思った。


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