Day26

朝歩ける喜びが日に増して強くなって来る。

歩いている時はきついのだが、1日寝てしまえばそんな事も忘れ今日に感謝出来るようになって来る。

歩くだけの旅が楽しいとは、遍路に来る前は想像も出来なかった。

毎日が新しい発見の連続で、決して同じ様な日は一日もなく、ダラダラと過ごす日もなければ、毎日が新鮮で刺激的である。


これが遍路か。




43番札所明石寺に向かう為、山の坂道を延々と登り、難所と言われる歯長峠に行くが崖崩れの為通行止めになっていた。

仕方なく、迂回する道を進むが、ここも木がボコボコ倒れている。

 

黙々と歩き続け、県道に出ると、車から降りて来たおばちゃんにジュースお接待してもらった。

「遍路さん、私この前結願したんよ、あなたも頑張って、はいこれ!」

ありがたくそのジュースを頂いた。

結願か、後何日で行けるのだろう・・・想像も出来なかった事が少し現実に近づいてきた。



 

明石寺到着。

この門の前では若い女性が遍路の恰好をしたフィギアを取出し写真撮影をしていた。

流行っているのだろうか?

話しに聞いた所、四国では女子高生3人組がお遍路旅をするアニメ番組があるらしいが、その影響かもしれない。

しかし、門の前では皆さん写真撮影をするので、フィギアの着せ替えで時間を取っていたその女性は住職に注意されていた。

自分の趣味をするのは良いが、人の迷惑も考えないといけない。


明石寺を後にし、裏山から大洲に向かうが、余りにも遍路マークが散乱していて、どっちに行けば良いのか分からなくなって来る。

遊歩道を歩いて来たお姉さん達に大洲までの道を聞くと「あんな遠い所まで行くんですか?」と一瞬吃驚しているようだった。

私にはなんて事ないが、普通の人はそう思うかもしれない。

丁寧に山を抜ける道を教えてもらい、そこを抜けると昔ながらの町並みが広がっていた。



宿場町として栄え、江戸時代の建物などが今でも残り、ところてんや、あんみつ、サイダー、竹製品、など定番の商品も売っている。

こう言った道は歩いていて楽しいので、長い距離を歩いても気が紛れ疲れない。

その通りを1時間ほど行き、コンビニでトイレ休憩をしていたら真っ白なベンツが目の前に停まった。

その中から降りて来たのはお坊さん。

お坊さんは質素なイメージがあったが、ベンツにスマホを手にし、コンビニに入るのを見ると何か違和感を覚える。

私の勝手なイメージなので、向こうからしたらそれが当たり前なのかもしれないが、お坊さんでもベンツにスマホ、コンビニか、と、時代の流れを感じた。





県道を抜け、国道に合流し鳥坂峠に差し掛かり、ここからは1.2キロのトンネルを抜ける道と、峠を越える道があり、トンネル利用は25分、峠超は60分と案内板に記載されている。



私は江戸時代から使われている鳥坂番所後を見たかったので、きつい道だが峠超を選択した。

 

ここである。

大洲藩が人材の流出を防ぐ為、ここで旅人は取り調べを受けていたようだ、しかし、遍路旅であれば比較的楽に通行出来たと書いてある。

その道を行く。



道に入ってから10分後、トンネルを通れば良かったかな、と、少し後悔した。

滅茶苦茶坂がきつい・・・



一気に標高470メートルまで登って行くが、汗が止まらずペットボトルの水分を調整しながら飲む。

こう言った山の坂道は立ったまま休憩をし、息が整ったらすぐに歩く、この繰り返しが一番良い。

頂上を見たり、座り込んだりしてしまうと、精神的にきつく急激に疲れが襲うので、目の前の道だけを見て歩く。

これは、今までの経験で学習した事だ。

とにかく1歩1歩丁寧に足を出す。

暫くすると、体が慣れて来るので息もそこまであがらなくなり、調子が整ってくる。

最初の内はこのパターンが全然分からなく、上を見て精神的にきつくなり、座り込んで体の疲れを誘発していた。

そこから何を学ぶか?全てはフィードバックあるのみ。





やっと頂上に到着。

ここからは坂を下って行くだけだが、一度膝を壊した経験があるので斜めに下りて行ける場所は斜め下りをする。

登り始めの後悔はここに来て間違いである事に気づく。

この鳥坂峠は何とも気の流れが良く森林から出るフィトンチッドが出まくっている。



歩く事で出るドーパミン、エンドルフィン、セロトニン、森林から出る癒しと安らぎの効果フィトンチッド。

更に太陽の光を浴びてセロトニン、メラトニン・・・その効果は何十倍にも増幅される。

これらが合わさると落ち込む事は不可能だ。

鬱の基本的要因はストレスでセロトニンが低下する事だが、遍路ではその要因が排除され、快楽物質を出し続け、浴び続け、普通の人よりも元気で意欲的になる。

自分で体験しより深くアドバイスが出来る・・・恐るべし遍路!


森林浴を楽しみ風景を見ながら歩くと日天月天様と言う祠があった。

 

昔の人は太陽と月を崇めてお参りしていたらしい。

昔の人はどういう思いでこの道を通って来たのか?

その土を踏みしめながら前へと進んで行く。



鳥坂峠を下り、国道へ出ると、国道の見本「The ラーメン屋」と言う名称がぴったりなラーメン店があったのでそこに入る。



こう言った場所はラーメン屋でも演歌か?と思っていたら、さだまさしの音楽が流れて来た。

さすがは国道沿いのラーメン屋さん。





大洲の町に入り、大洲城を横に歩く。

この町もまた風情がある町で活気がある。

昔ながらの味噌屋さんや酒屋さんなどがそのままの形で残っていた。

 

暫くし、十夜カ橋に着き見学をして行く。

ここは、弘法太子空海が野宿した場所で有名で、その名残から橋の上で杖をついて失礼になってはならないと言われている。

 

だから遍路さんは橋の上では杖を突かないのが原則である。

この十夜カ橋には車で来ているお遍路さんも沢山訪れていた。


それから暫くし宿に入るが、なんとそこには8日目の夜に出会った、20回歩き遍路をしている、ベテラン遍路さんと再会した。

向こうもこちらを見て吃驚している。

どうせリタイアするだろうと思い、追いついて来るとは夢にも思っていなかったらしい。

最初の遅れは後で挽回出来るが、最初の無理は最後まで響く、その言葉を思い出した。

徳島で膝を壊し、そこから戦略を変え、体力をつけ、20キロ、30キロ、35キロ、40キロ、45キロと体を慣らして来た。

今では20回も遍路を廻り、誰よりも歩けると言っていた人に追いついてしまった。


「あんな状態からよく、ここまで歩いたね」


その方に言われ、嬉しくもあったが、距離を延ばす事にはもう興味はなくなっていた。


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