Day27

マイナスイオンが溢れているような川沿いのひわだ峠遍路道を歩くと、どこからか「ワンワン」と言う声がする。

何か動いたぞ・・・

遠くの方から犬がこちらに猛ダッシュで走ってくるが、鎖で繋がれていないって事は野犬か?

一瞬逃げるのか戦うのか迷ったが、私の数メートル手前で止まり、互いに目を見つめ合い動かない、数秒後・・・犬が急に大人しくなった。

この犬である。




首輪もしていないので、ひょっとして捨て犬なのかもしれない。

先程の威勢はなく、今度はクンクンと甘えて来たので、持っていたパンを一切れあげるとそれを加えどこかに行ってしまった。



 

そこから、標高200、300.400、570と山を登って行くが、下坂場峠に出た頃には既に汗だくで腰に鈍い痛みを感じた。

嫌な予感。

少しの間ストレッチをして、筋肉を伸ばすが、こんな所で腰に異常が出たら下りるに下れない、何とか応急処置を施す。


 

ひわだ峠遍路道はいかにも遍路をしていますと言う感じの道で気持ちが良い。

やぎが顔を出す小屋を通り過ぎ、頂上まであと少しだが遍路道に楽な道はない。

 

やっと、標高800メートルの峠に到着。



弘法太子空海が巡礼の時、大洲の町から雨が降り続き、この峠でやっと晴れ「日よりだ」と言った事から、それが訛り「ひわだ」になったらしい。

ここには昔、茶屋もあったと記載されている。

また、空腹と疲れで地団駄を踏んだ岩があるとされているが、山と一体化して良く分からなかった。

この場所で持ってきたおにぎりを食べ、44番大宝寺に向かう。

ひわだ峠を下り、大宝寺のある久万町に入るが、そこでは地元のお祭りが開催されていた。

街でのお祭りだと、屋台が並び、イベントが開催されと言った感じだが、この町では地元の人が手料理を販売し、和気藹々とした雰囲気であった。

街みたいに遊ぶ所がないのであれば、お祭りは楽しみだろう。



 

大宝寺に着く頃には、体中が痛くクタクタになってしまった。

腰の痛みに加え、ふくらはぎが尋常ではない痛さである。

摩るだけで激痛が走る。

通常はふくらはぎを抑えるとへこんで筋肉に到達するが、遍路していると足がパンパンになり、常に筋肉が張っている状態。

体を慣らして来たとは言っても40キロ越えを連発し、疲れが蓄積されていたのかもしれない。

慢心は駄目だ、もう一山あったか・・・だからこそ遍路は半端ではない。


「遍路さんこれ食べなさい」

休憩をしているとおばさんがみかんを接待してくれ、それで少々気が紛れたのでありがたかった。

このお寺は44番、調度88か所の半分と言う事もあり、多くの遍路さんが車、バスなどで訪れている。

歩き遍路の場合、距離では半分以上過ぎているが、44番目の節目なので気合が入るお寺でもある。

「よし、頑張るか!」

次の岩屋寺に向けて出発。

しかし、またもや標高760メートルの八丁坂の難所を通って行くので今から気が重たくなる。



 

大宝寺から約6キロ歩いて来た所に八丁坂の案内板が立っていた。

そこには、岩屋寺は修業に最も適した場所なので昔の人は急なこの坂道2.8キロを修行の遍路道として選んだ記載されている。

「マ、マジかよ・・・」

よりによって腰とふくらはぎを痛めた時に、修行の急な坂道を登るとは・・・


「やれんのか?いけるのか?」

「ここまで来たら行くしかないだろう」


と、ぶつぶつ言ってみるが、足が前に進まない。

もう一度ここで入念にストレッチをし、顔を叩いてから出発した。




いつもの山道よりも5倍きつい、これはこの道がきついのもあるが、私の体が不調なので余計きつく感じるのだ。

いつもの戦法を取り、すぐ目の前だけを見る、ふくらはぎを使わない登り方をする、腰を痛めない様に姿勢を良くする。

しかし、1歩が遅く前に中々進んで行かない。

今の状態であれば、遍路を始めた頃おばあさんに抜かれた時と同じかもしれない。

その時、後ろからおじさんお遍路さんが追い付いて来た。

「お疲れさん、きついねこの坂」

どうやら、その方はこの近くの宿に泊まり、荷物を置かせてもらって登っているようだった。


・・・いや、羨ましくはない。

私は全ての行程でザックは背負うと決めている、例え体が痛くてもそれが最初に決めた事だ。

難所には必ずと言っていいほどぶら下がっているプラカードを見つめ肝に銘じた。





やっと、八丁坂に到着する。

こんなに山道を登るのに苦労したのは何時以来だろう?そんな事を思いながら石碑を眺めた。



この石碑は1748年に建てられ八丁坂の目印になっている。

266年前の石碑は凄い、9代将軍、徳川家重の時代である。


そこから山の尾根を暫く歩き、岩屋寺の裏手辺りに下って行く。



すると、樹齢数百年のどでかい木が至る所に立っている。

  

この光景や雰囲気は非常に神秘的であった。

他にも大きな赤不動が祀られていて、せり割りの行場などがある。



大きな岩に鎖を伝って登って行く修業の場で、昔から多くの方がここで修業をしたと言う。

この岩屋時寺に向かう道は神秘的で一見の価値があり、肉体的疲労度は消えないが、精神的に満たされる。

そこからすぐに45番岩屋寺である。



岩屋寺で休憩をしていると、最近よく見かけた区切り打ちの元気なお兄ちゃんがやって来た。

いつもならば、良く喋るのだが彼も疲れているらしく言葉数が少ない。

どうやら、限界のようだ。



岩屋寺で納経を済ませそこから暫く歩き宿に到着。

玄関ではおかみさんが出迎えてくれるが、ザックを置いた瞬間緊張が抜けてしまい、立てなくなった。

おかみさんに腰とふくらはぎを痛めた事を話し、部屋まで最後の力を振り絞って歩いて行く。

「今日のお客さんは他に大学生の女性3人だけよ、今、町を散策しに行っているから先にお風呂に入って」


その瞬間、私の細胞が蘇り、力が漲ったような気がした。


夕食時、食堂に行くと一つのテーブルに私を入れて4人分の御膳が並んでいる。

そこに大学生3人組の女性陣が・・・

私の最も得意なパターンではないか。

勿論、遍路中、邪な考えはNGだが「お疲れ様です」の言葉を合図に私の独壇場であった。

男一人、女3人楽しくない訳がない。


ケラケラと笑う彼女たちを見ていて懐かしい空気を感じた。

街で飲み明かしていた頃から遍路に出て約1か月、新鮮だと感じなかった事が新鮮だと感じる。

彼女達は普段飲まないお酒を飲み、会話が弾み、宴はずっと続く。


これも旅の醍醐味だろう。


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