昨日の宿では遍路さん同士結願の話で盛り上がった。
もうここまで来ると、後何日も掛からないので、その思いを噛み締めながら道を歩いて行く。
道を黙々と歩いていると、後ろから凄い勢いでおばさんが走って来た。
「お遍路さん、すいません!」
その声と勢いに少々面喰ったが、いきなり千円を渡され収め札を貰えますか?と言う。
収め札はお接待を受けた時、お礼に渡すものだが、何か切羽詰っている感じがしたので、お金は頂けません、普通に収め札をあげますよ、と言うと、いやそれではご利益がないので受け取って下さい、と言う。
勿論、深い理由など聞けないので収め札を書いて渡したが、お金を頂くのは少々気が引ける。
この他にも、この道では何故かお接待を受ける割合が多く、みかん、ジュース、飴などを貰う。
ありがとうございます、と、こちらが言うと、いやいやご苦労様です、と言われる。
四国巡礼は四国の人にとって神聖な文化。
私ごときがそう言われるのは恥ずかしいが、やはりお接待を受けると心に沁みる。
ありがとうございます。
しかし、国道の1本道は代わり映えがそこまでしないので、歩いていてもそう楽しい物ではない。
遍路さん同士、抜かしたり、抜かされたり、それが続く。
私が何気なしに抜かした若い男性の遍路さんがいたが、何故かムキになって付いて来る。
私の方が歩幅はあるので、どんどん進むと、最後は走ってどこかに行ってしまった。
面白い人もいるものだ。
「あっ!」
その時気付いたのだが、宿に下着を干したままで持ってくるのを忘れた。
男の下着なんか忘れてもらっても宿の人は迷惑だろうが致し方ない。
幸い山道でなく県道や国道沿いでコンビニは沢山あるので、そこで下着を購入するしかない。
途中、別格12番の延命時に寄るがそこには弘法太子空海が植えたいざり松がある。
ここも多くの参拝者で賑わっていた。
いざり松は枯れてしまっているが、かなり大きかったようだ。
昼近くになり少し洒落たお店に入るが、遍路姿の私にとっては少々場違いのようである。
着飾った女性の軍団、それに引き替え汗だらけの服でザックを背負い金剛杖を持っている私。
しかし、受付の女性は嫌な顔一つせず案内をしてくれ「遍路大変ですね」と言いながらメニューを渡してくれた。
ランチセットもお洒落で、その中の一つ、ベーグルセット注文したが、久しぶりのパン食と言うのもあって非常においしいランチであった。
地図を眺めながらもっと歩きたい、もっと色々と知りたい、許されるなら地球の果てまで歩きたい。
遍路が終わろうとしているが、明らかに意識に変化が出て来ている。
チャレンジとは思いがけない思考、感情を生み出す物である。
今日の宿ではまさかの一人宿泊。
遍路宿なので誰かはいるだろうと思っていたが、一人の夕食は味気ない。
しかし、その旅館のおかみさんと盛り上がり、それはそれで楽しかった。
また、猫が2匹いたので、癒された瞬間でもあった。
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