Day35

朝日が昇る中歩きはじめる。



当初きつかっただけの歩きが今では習慣になり、これ程楽しくなるとは想像もしていなかった。

これ以上の旅はあるのか?と聞かれたら、ないような気がする。

私は世界の旅全てを廻った訳ではないので感想程度しか言えないが、世界中を廻った人でも最終的に遍路を訪れる人が多く、遍路は人が望む全ての感情を満たしてくれるのが理由かもしれない。





68番神恵院69番観音寺、この二つのお寺は一つにくっ付いていて、納経も同じ場所でしてもらう珍しいお寺さんである。

門は一つだが、本堂、太子堂とそれぞれ2つずつある。

また交通の便が良いのでここで区切り打ちを一旦終える人や、打ち始める人でも賑わう。

今は既に最後の県、香川県なので、昼はなるべく讃岐うどんを食べたいものだ。


 

70番本山寺に着くと、掃除をしているおばさんが歩き遍路さんにだけと、飴のお接待をしてくれた。

こう言った心使いは本当に嬉しくありがたい。

その事を知っているのか、ベンチに荷物を置くと野良猫が近寄って来た。



さすがに飴はあげられないので、ほっておくが、ここから離れようとしないので、そのままお参りに行った。


座っていたら若い人数人とおじさん一人のグループが喋りかけて来た。

「通しで歩きですか?」

「はい、そうです」

「いやいや凄いですね」

どうやら会社の研修で、歩き遍路をプチ体験しているようだった。

話を聞くと会社に入った若い人はスグに音をあげるので、精神修行で連れて来たら、全然歩けないので吃驚していると言う。


難しい所である。

私も自身が遍路を体験し、為になると思えばコーチやカウンセリングの観点からお勧めしようと思ったのだが、遍路は自身で発心しないと歩く事は不可能だなと思い始めていた。

歩く理由、歩きたい理由、遍路を廻る理由が少しでもあれば、歩き続ける内に人に助けられたり、励まされたりして頑張れるかもしれないが、歩きたいと思っても途中で止めてしまう人が殆どの現状で、嫌々歩いても必ずリタイアしてしまう。

遍路道は半端なくきつい道の連続だからである。

私も歩くのが習慣になるまでは非常に苦労をし、何で歩いているの?やめてしまえば?街では楽しい事が待っているよ・・・などなど葛藤をした。

プチ遍路も良い経験になると思うが、自分自身が心に何を秘めるかが重要ではないだろうか?

この経験を通して、そんな事を思い始めていた。



本山寺から次の札所弥谷寺までは緩やかな坂をずっと上がって行く。

車で来る人は駐車場から本堂まで階段を利用するか、専用のシャトルバスを利用する。

ここもかなりきつい坂の連続だ。

門が見えたと思ったら、そこから煩悩を消す、108つの階段がある。

  

上まで上がって行くと、修行をしているのか、若い丸坊主のお坊さんの団体さんがいた。

普通、若い人は会社に入って就職すると思うが、お坊さんになる人はどう言ったルートでお坊さんになるのか?動機は何なのだろうか?

好奇心の強い私はそれが気になった。



しかし、弥谷寺は複雑な作りになっている。

 

今いるのが太子堂の前なので、更にこの山の上に本堂があるみたいだ。

ぐるっと周り、山の上にある本堂を目指す。

  

皆、ここに来るまでに息を切らして上がって来るので、一息ついてからお参りをしている。

この弥谷寺は若かりし頃の弘法太子空海が勉学励んだ場所で有名である。

開創1200年の記念と言う事で江戸時代に一度だけお披露目されたその岩屋と、弘法太子像が見られるらしいので、見に行った。

写真撮影は禁止なので撮る事は出来なかったが、滅茶苦茶歴史を感じる場所であった。

弥谷寺は階段、階段、どこに行くにも階段ばかりで膝の悪い人にはかなりきついだろう。


弥谷寺を後にし、気持ちの良い竹林を抜け、72番曼荼羅時。

 

73番出釈迦寺。

 

この出釈迦寺は多くの参拝者で賑わっていたが、この奥の山頂にある捨身餓ケ嶽は弘法太子空海が身を投げ天女に助けられた事で有名である。



昔はその山頂に札所があったが、今は麓のここに札所は移されている。

私はそのまま次の札所に向かおうとしたが、休憩をしていた人が「今仲間が捨身ケ嶽に登っている、私は足が痛いのでここで待っているけど行けるなら見ておいて方が良いよ」と言う。

その時、お仲間さんが戻って来た。

感想を聞くと、山の頂上は鎖をつたって登って行くので、危険だから行かない方が良いとの事。

納経してもらう時、住職に捨身ケ嶽の話を聞くと普通の人で往復2時間かかると言う。

迷った末、行く事にしたが、たまたまこのお寺に車で来ていた男性の若い2人組も一緒に歩いて行くと言うので、3人で出発した。




登り始めは急な坂なのできつかったが、それを過ぎるとどうって事はない。

一緒に来ていた2人組は普段歩いていないのでゼイゼイ言いながら「もう駄目です、先に行って下さい」との事で自分のペースで歩いて行く。


  

山の中腹に差し掛かり、あの頂上が捨身ケ嶽だ。

それから10分、門に到着し本堂、今は禅をする場所になっている。

 

ここは車では来られないので、さすがに人が一人もいない。

その奥に行くと、先程の人達が言っていた場所がある。

  

この上は弘法太子空海が身を投げた場所なので鎖を掴み登って行く。

 

ここが頂上で先程の禅堂が小さく見える。

写っている木はカミナリにうたれたような感じだ。

ここからは北に瀬戸内海、南に香川の山々が見渡せる。

 

ここに登った人は皆何を思うのか、私も暫しこの場所で景色を眺めていた。

下に降り鐘を突くと遠くまでその音は響き渡り、静かに音は消えて行く。



すると、先程の2人組が到着した。

「上に登るのですか?」

「いや、私達はここまでです」


結局50分ほどでこの捨身ケ嶽を往復し、74番甲山寺に向かうが、麓に行くと途中捨身ケ嶽があった山が良く見える。



あの山を登って来たんだ・・・しかし、毎日毎日良く歩けるなと自分自身かなりタフになった事に気が付かされた。

写真を撮る枚数も確実に増えている、それだけ余裕が出て来た証拠だろう。

今考えるともっと写真を撮っておけば良かったと悔やまれるが、余裕がない時は歩くのに精一杯だったので致し方ない。



 

甲山寺に着くと、出釈迦寺で喋ったグループが来ていて、「もう行って来たのですか?」と、少々吃驚しているようだった。

普通に歩いていても今までの習慣で足が早くなっているようだ。

今日は、この後の善通寺を参拝したら終了なので、意識してゆっくりと歩き見学しよう。


善通寺は敷地がとても大きく、本堂と太子堂が大きく分かれている。

本堂に参拝してから太子堂に向かうが敷地内には五百羅漢像が並んでいる。

 

 

太子堂に向かう道には弘法太子空海が歩んで来た歴史絵が飾ってある。

 

見学していても様々な物があるので見応えがある。

自分が今まで知らなかった事が沢山あり、百聞は一見にしかずとはこの事だろう。


今日は、この善通寺での宿泊。

前の宿から10~20キロ足らずであれば素通りしていたが、距離的にも調度良く、時間的にも調度良い。

また、この善通寺は弘法太子空海が生まれたお寺さんなので、外国からの宿泊客や、全国からのお客さんで普段は空いていない場合が多く、たまたま今日は部屋が空いていたので運が良かった。


夕食は初めての精進料理、人生初である。

と言うか、お寺の精進料理を食べるのが初めてである。

若い人には物足りないと思うが、私はビールをガンガンに飲むので、つまみとしては調度良いかもしれない。

隣には車で廻っているご夫婦がいて、昔、歩いて廻った事があるらしく、今、歩き遍路をしている私に興味があるようだった。

「車で廻っていても達成感はあるのに、歩きだと半端じゃないでしょ?」と。

確かに半端ではない。

しかも、その達成感を、毎日、毎日、長期間に渡り味わうので中毒になる位である。

そこから、今までの旅の話、きつかった事、楽しかった事、出会った人の事、自分自身の変化の事などを話した。

そのご夫婦は会社を息子に任せて、今は夫婦で優雅に旅をしているらしく、こんな事を言っていた。

「旅は心を満たすために行くが、遍路は人生の縮図を味わえる」と。

「世界中を旅行して来たけど、遍路より刺激的な旅はなかった」とも言っていた。

人生の縮図を味わえる旅なんて、世界中探しても他にはないのかもしれない。


楽しく会話をさせてもらい、部屋に戻ると、今日、弥谷寺で会った若いお坊さんの団体がいた。

10人位の丸坊主の団体さんだが、どうやらバスツアーで遍路廻りをしているらしく、その内の9人がたばこを吸って、勢いよく鼻から煙を出している光景は異様である。

「お坊さんってたばこを吸うんですか?」

お坊さんは体調管理をされているのかな?と、勝手に思っていたので、そう聞くと、


「かなり多いっすよー」

「若い人は殆ど吸ってるんじゃないっすかー」

「そうっすね」 「そうっすよ」 「行くんすかー」 「だりーっすよ」


と、これまた、お坊さんは、一休さんみたいな丁寧な喋り口調と勝手に思い込んでいた私は、今時の若者口調で喋るお坊さんに少々面喰った。

いやいや、やはり何事も飛び込んでみないと、分からない物だなと思う。

しかし、お坊さんって恋愛はどうしているんだろうか?さすがに合コンやパーティーとかは行かないだろうし、ナンパやキャバクラは論外だろう。

またまた好奇心が沸いて来た夜であった。


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