Day39

朝、6時30分、それぞれの思いを抱えて旅立って行く。

もう、遍路モードではなく、ただ歩くのを楽しむお礼参りである。

これで二度と40キロを歩く事はないんだろうなと思いながら歩みを進める。





ここに来て不思議な事がある。

あれだけ痛かった足の痛みは消え、慢性的な腰痛もきれいさっぱりなくなっている。

特に腰痛に関しては、知り合いの気功師に頼んでも、有名な整体師に行っても、病院でも、筋トレでも、数十万の高額な器具を買っても、情報商材を試しても、数百万使い完治はしなかったので諦めていたが、今は全く痛みがない。

これが治っただけでも遍路に来た甲斐があった。

1200キロ歩く内に恐らく足腰のインナーマッスルがかなり鍛えられたからだと思うが、そのお蔭で足取りが軽くドンドン進んで行ける、これが腰痛のない状態か。



香川から徳島に入るが、相変わらず地元の人は「お気をつけて」と挨拶をしてくれる。

この挨拶を聞くのも今日が最後。

思い返せばどれだけの人に励まされたのか分からない、本当にありがたかった。





日開谷川に沿って雄大な景色を見つめながら10キロ、20キロと歩を進めると、懐かしの10番札所、切幡寺が見えて来た。

ここからは1番札所まで逆打ちの形で進んで行く。

9番、8番、7番と38日前に通った道を歩いていると「あっ、ここで休憩した」とか「あっ、ここで道を間違えた」とか、走馬灯のように記憶が蘇って来る。



しかし、それに気が付いて吃驚した。

「このベンチで休憩をした」と思ったら、1キロも行かない所でまた休憩をしていたのだ。

今ならば殆ど休憩はせず歩いて行くが、この当時は自分のペースが全然掴みきれていなく、余計に疲れてしまっていた事が良く分かる。

こんなにも休憩をして歩いていたのか・・・それならば確かに1日20キロが限界だ。


7番十楽寺を過ぎた辺りから、順打ちで歩いている新米お遍路さんに良く会う。

足取りは遅く、まだ、杖や菅笠や白装束も真新しい、今日歩きはじめたばかりだろう。

それを見ていると、歩きはじめたばかりの自分を見ているようで、懐かしさと新鮮さが混同して来る。

殆どの方が6番か7番近くの宿で今夜は宿泊するはずだ。

「こんにちは」と声をかけるが挨拶に慣れていないのか、俯いて首を傾げるだけ。

これから自身の壮大な旅が始まり、挨拶も何百回と交わすだろう。



「結願したのですか?」


6番を過ぎた所で、家族連れで順打ちをしている男性の方が喋りかけて来た。

「はい、そうです、これから1番に向かう所です」

「それはおめでとうございます」

「ありがとうございます」

恐らく、この方は結願した経験があるのだろう、私の歩き方や、杖の減り方、真っ黒に日焼けした顔で分かったようだ。

その娘さんが「わぁすごい」と言ってくれ、何だか恥ずかしくもあり、嬉しくあった。


3番に差し掛かる所では見覚えのある顔の人が歩いて来た。

「あっ!〇〇さん」

お遍路の事を色々教えてもらいお世話になったベテランお遍路さんなので、私は良く覚えているが、彼は私を必死に思い出そうとしている。

「初日の宿でお世話になった者です!」

少ししてから「あーキミか!」と、思い出してくれた。

「そう言ったらまた何で廻っているんですか?」と聞くと、

「いや、昨日結願して、バスで1番に戻ってきて、また、徳島だけは廻ろうかと思い今日から廻りはじめた所だよ」


・・・こ、これが四国病か。

確かに四国にはそうさせる魅力がある。


「しかし、暫く見ない内に・・・ま~、見違えるようだ、最初の頃とは別人だよ」

そうベテランお遍路さんに言われ、少し誇らしくもあった。





1番札所霊山寺に着き、お礼参りをしてから新品の杖と並べ、自分の杖の長さを計ってもらうと11.5センチも減っている。



これで本当に四国遍路は終わった、明日からは歩かなくていいんだ、感無量である。


と、その時真っ黒に日焼けして杖を減らした若者が目を輝かせ1番札所にやって来た。

彼の眼差しを見る限り、彼も結願し、お礼参りに来たんだろう。

旅を始める人、旅を終えた人、この1番札所にはそれぞれの思いがある。


宿では明日から四国遍路を始めるご夫婦や学生の方がいた。

昨日結願した事を伝えると旅の感想や質問攻めにあい、先輩として教えられる事は教え、旅のご無事を祈った。


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