Day5

今日は朝から荷物を纏め着替え数枚を送り返す。

洗濯機はどこの宿でも置いてあるので、毎日洗濯をすればそれだけ着替えを減らす事が出来るからだ。

それと、歩きに慣れるまでは距離を意図的に縮める事にした。

昨日の話で、これ以上足を壊してしまっては元も子もない。

今でも歩く度に膝、足首、ふくらはぎ、腰に激痛が走るので、本日は徳島市内まで17キロ歩くだけにする。

まだ、5日目だと言うのに杖も大分擦り減ってしまっている。

それだけ負担が掛かっているのだろう。




筋肉痛は栄養と休息を取れば72時間で回復するが、歩き遍路の場合、72時間も休む訳には行かないので、どれだけ毎日足を回復させながら歩いて行くかにかかっている。

そこで、考えたのが足の筋肉を労わりながら、筋肉を増量させて行く戦略だった。

幸い今日は街に向け歩いて行くのでお店は沢山ある。

そこで、BCAAとプロテイン、膝のサポーターと足首のサポーター、湿布などを購入する事にする。

これで、足の筋肉を労わりながら筋肉量は増量出来る筈だ。



お寺を順調に廻りながら歩いて行くが、今日はどこのお寺でもバスで来る団体さんが多い。

  

お遍路は今年1200年目の開創と言う事もあってか、旅行会社がツアーをバンバン組んでいるようだった。

そんなツアー客は、私みたいな歩き遍路を見かけると決まって「歩きですか?本当に凄いですね」などの言葉をかけてくれ、みかんなどでお接待をしてくれる。

歩き遍路は時間やお金をコントロール出来る力、強い精神力、体の怪我、周りの理解がないと出来ない事を皆さん知っているので、歩く大変さの反面、そんな環境を作り上げてきた人は羨ましがられる事がある。

確かにそうかもしれない。

この旅で野宿しながら廻っている20代の学生はちらほら見たが、30代40代50代の現役で働いている人は、区切り打ち以外、(通しでは外国の方を除いて)一人も見かけなかった。

通しでは殆どが定年退職をした人ばかりである。

会社勤めの人は長い休みを取る事が出来ないし、仮に社長だったとしても長期の休みは厳しいかもしれない。

私みたいに自分で起業しパソコン1台あれば世界中どこにても仕事が出来る人の方が珍しい。

女性は様々な理由であらゆる年代の人がいたが、男性の通し歩きで遍路を廻れる境遇にある人は特別なのだろう。

しかし、私もこの環境になるまで人の100倍は働いて来たと思う。

寝る時間を削って、自己投資を何度も繰り返し、自分が理想とする世界に向かって何度も失敗を重ねながら働いてきた。

当たり前だが、すんなりと自由が手に入るほどこの世は甘くない。

会社勤めであれば安定感はあるが、個人の自由を奪われ、起業ならば自由はあるが、安定感はない。

従って、自由で安定感がある方向性を人は求め、何とか頑張るが、その立ち位置に来たとしても、そこで満足し、今度は刺激がなくなり飽きて来てしまい、堕落して行く。


人は本当に贅沢な感情の生き物である。


だからこそ、自由と安定の中、何時までも何かにチャレンジし続け、成長するしか自分の感情を満たす方法はない。

仕事に向かう国道沿いの車の渋滞を見ながら、ザックを持って旅に出かける事が出来る、今の自分の境遇に感謝した。





今日は時間があるので、途中、整体を見つけ、足をマッサージしてもらおうと入った。

そこの先生が私の足を揉んで吃驚していた。

「尋常ではない位、筋肉がパンパンですよ」と。

足に触れるだけで激痛が走るが、ツボを何度も押してもらう度に少しだけ痛みが取れて行った。

若い先生ではあったが知識は豊富だったので、足が痛くなったらこのツボを押して下さいと教えてもらう。



その後、国道沿いのラーメン屋で徳島ラーメンを食べていると不思議な感覚に襲われる。

今まで旅館や民宿の食事を取って来たので、無性にラーメンやエクレアなどのジャンクフードが食べたくなって来る事だった。

歩き続け体力を消耗すると猛烈に糖分や塩分などが含まれた食事を欲するようになるのだ。



徳島ラーメンを食べた向かいに大きなショピングモールがあったので、そこに向かうと、通りすがりの方達から「どちらから?」「焼山寺きつかったでしょう?」などの声をかけられた。

この場所で歩き遍路をしていると言う事は、焼山寺越えを終えた事を徳島の人は皆知っているので大勢の方から声をかけてもらった。

ショピングモールでも、ドラッグストアの店員さんが親身になって対応してくれ、遍路は凄まじい体験である事を実感した。





今日は慌てる事はないのでゆっくりと宿を目指す。

チェックインはどこでも午後3時からなので、それに合わせて宿に着くが、外観は昭和の香り満載のビジネスホテルだった。

殆どの歩き遍路は遍路専用の地図に載っている宿を予約する。

楽天などから予約出来る宿は遍路道から離れてしまうので殆ど使われない。

私が今回予約した宿も遍路道の途中だったので一々情報を調べず予約したのだが、どうやら個人経営のビジネスホテルだったようだ。

外玄関先で返事をしても電話をしても出て来るのは猫2匹だけ。

テレビは付けっぱなしになっているが、待っていても誰も出て来ないのである。


それから1時間ほどしてから90歳近くになるおじいちゃんが出てきて「早かったね」と、満面の笑みで出迎えてくれた。

私が膝を壊している事を話すと、「そうか、今日はあなた以外誰もいないので3階の部屋を使って」と、言われる。

誰もいないのであれば、1階にも2階にも部屋はあるので膝に負担がかかる3階の部屋は勘弁してくれよと思ったが、致し方ない。

私が洗濯はどこでするのか尋ねたら、「洗濯するのか?」と言われ乾燥機はないので屋上で干してくれと言われた。

外では雨が降り出していた・・・これも致し方なく部屋干しする事にした。


今日の宿は面白い。


部屋に入った時、空気を入れ替える為にカーテンを開けたのだが、都会では絶対に見られないタランチュラの子供みたいなドでかいクモが飛びかかって来た。


マジ、びびった・・・


部屋を変えてもらおうと膝の痛みに耐えながら下に降りて行くがもう既に誰もいない。

しょうがないのでまずはそのクモを外に追いやる格闘する事30分。

このクモがすばしっこい奴で、あと少しで外に出ると思う時、部屋に向かってジャンプして来る。


「おれ、いったい何してるんだ?」


と、やっとの思いでクモを追い出し、部屋にあるシャワーを浴びに行くが、そこには大量の女性の毛が・・・


「貞子か?貞子が出たのか?」


理由はその後すぐに分かった。


シーツやタオルは新しい物に変えてあるが、宿泊した人のゴミがそのままゴミ箱に入っていたので、清掃をきちんとしていないのが理由だった。


遍路では絶対に宿泊してはいけない宿の情報を耳にする。

それは、不潔度、対応、料理などの要素から口コミで広がるが、このビジネスホテルは手抜きと言うよりも、明らかに清掃したと言う勘違いから来たものと思われるので怒るに怒れない。

それは、おじいちゃんの満面の笑顔と対応が物語っていた。


Day4Day6

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